眠り姫

#ルカさんのご機嫌を取るメイコさんの話。
#メイ誕2016。
 

 
眠り姫
 
 終電を逃してしまってタクシーで帰ることは伝えてあった。先に寝てくれて構わないとも。
 それでも律儀に私の帰りを待っていたらしいルカは、リビングのソファで丸くなって眠っていた。
 テーブルの上には何やら美味しそうな四合瓶。蔵元の隠し酒なるラベルが貼られている。コップ一杯分も減っていないが、ルカが飲んだのだろうか。
 何だろう。やけ酒? 私の帰りが遅かったから?
 かわいいなあ。
 フランス人形のような綺麗な寝顔のことではなくて、もちろんそれも可愛いけれど、私の好きな蔵元のお酒をわざわざ買ってきたり、健気に遅くまで私を待っていたり、待ちくたびれて慣れないお酒に手をつけてみたり、それで結局寝落ちしていたり、私のことが大好きなルカは、やることがいちいち可愛いらしい。
 ただいまと、声をかける代わりにキスをひとつ。
 くすぐったそうに身じろいで、ルカはゆっくりと目を開けた。そういえばそんな童話もあったっけ。
「眠り姫みたい」
 起き抜けに、唐突にそんなことを言われたルカはきょとんとして、鞄も上着も帰ってきたままの格好の私を見た。
「私、寝ちゃってました?」
「うん。ちゅーしたら起きた」
「ああ、それで」
 何をやってるんですか、とでも言いたげにルカは苦笑する。それから部屋の掛け時計を見やって、私に視線を戻すと午前様ですねと言った。これは確実に責められているが、抜かりはない。
「おみやげ」
 帰りがけに買った、コンビニ袋の中身は生クリームが乗ったちょっと高級なプリン。
「明日一緒に食べようね」
 もう今日だけど。
 という突っ込みもなくルカは素直に返事をした。お姫様のご機嫌をとるには甘いもの、ではなくて、二人で過ごす時間に限る。
「これも明日飲もうね」
 飲みさしのグラスから良い香りがする日本酒は、本音を言えば今から楽しみたいところだけれど、あくびを噛み殺しているルカを夜更かしに付き合わせるわけにはいかない。
 四合瓶に栓をして、プリンと一緒に冷蔵庫に片付ける。私が側を離れたその少しの間に、ルカはクッションを抱えて船を漕いでいた。
「寝るならベッドで寝なさい。風邪ひくわよ」
 言われてしぶしぶ立ち上がる寝起きの悪いルカは、メイコさんが遅いのがいけないんです、と思っているに違いない顔をしている。
「あの、メイコさん」
「なーに?」
「お誕生日おめでとうございます」
 小言の一つや二つや十個くらいは受け止める覚悟だった私に、ルカは意外なことを言った。
 なるほど機嫌が悪かったのはそういうことか。
「もしかしてそれを言うために待っててくれた?」
「でも、過ぎちゃいました」
 不満そうに唇をとがらせるルカ。私の誕生日のその日のうちに言いたかったらしい。
 ああ、かわいいなあ。
 私のことが大好きなこのお姫様は、本当にやることがいちいち可愛らしい。
「お風呂入ったらすぐに行くから、待ってて」
 一緒に寝ようという意味でそう言ったのに何を期待したのか、ルカは頬を染めて頷いた。