オペラが家出した話

…を、去年のセリーヌの誕生日に合わせてか何かの勢いで突発的に書いたのですが、この先に続けようとした話がどっちも微妙で没になったのでとりあえず書いたところまで晒しておきます。
没理由は下記のとおり。
 

 
 
クロードルート
(テトラジェネスから)オペラを迎えにきたクロードが
「あの、そろそろ帰ってきませんか…」
と遠慮がちに言ってオペラが満足する。
 ↓
ただの痴話喧嘩で辺境の惑星まで家出してくるとかオペラがベクトラ家の当主としてなってなさすぎる。
 
 
セリーヌルート
セリーヌが帰ってくるまでに部屋を飾り付けたり軽食を用意したりして、セリーヌの誕生日をサプライズ的に祝う。
 ↓
ディアスとオペラと言う家事能力の無さそうな二人でどうやってサプライズパーティーを演出すると言うのか。
 
 
———- ここから本文

 その家を訪ねるのは今日が初めてだった。
 ここに住んでいるはずの、冒険家気質で金勘定に厳しい友人は、その性格に似合わず良い家柄の娘であるらしく、きちんとした両親にきちんとした躾を受けて育ってきたと言う印象があった。
「なるほどねえ」
 家構えを見て、オペラは得心が行ったようにひとり頷く。
 家屋は周囲の民家に比べて一回り大きく、垣根はよく手入れされていて、庭木や花壇は種類が豊富で趣があった。
 整った庭の様子に感心しつつ、正面玄関のドアノッカーを鳴らす。続けてごめんくださいと声をかけるが、誰も出ない。
 三回ほどそれをしてしびれを切らし、垣根伝いに裏庭と思われる側へ回った。背の高い男が一人、庭木に実った若柳色と紅の入り混じった果実を収穫している最中のようだ。
「精が出るわね」
 声が届く距離まで行ってそう言うと、青い髪の背の高い男は、オペラを認めて驚いた表情を見せたわりには言葉少なに、久しぶりだな、とだけ返した。オペラが知る限り無口なのだ。このディアスという男は。
「誰も出なかったわよ、玄関」
「誰もいないからな」
「セリーヌは? いないの?」
「朝から出掛けている。仕事で」
「いつ戻るの?」
「夕方には戻ると言っていた」
「そう。じゃあ待たせてもらうわ」
「そうか」
 一問一答のぶっきらぼうな受け答えを懐かしいと思えるほどには、もう何年も彼とは会っていなかった。
「何もないが、茶ぐらいは出そう」
「あら、ありがと」
 意外な気づかいに驚きつつ、勝手口へ向かって歩いていくディアスの後に続く。
「それ何の実?」
 ディアスが小脇に抱えている笊には、先程まで彼が収穫していた若柳色と紅の、調和の取れた色合いの実がぎっしりと入っていた。
「棗だ」
「食べられるの?」
「林檎のようなものだ。後で出してやる」
 彼なりに旧友を持てなそうという気があるらしい。変われば変わるものだ、とオペラは思う。ぶっきらぼうで人嫌いだったはずの数年前の彼に比べて、纏う雰囲気が随分と穏やかになっている。よく考えてみれば、こんな場所で木の実の収穫に勤しんでいる姿も初めて見た。彼の実家はもう無いから、そのぶんセリーヌの実家に居着いてしまっているのだろうと、以前セリーヌ自身が言っていたことを思い出す。
「そういうものかしらねえ」
 オペラにとって『家』はそう良いものではない。時おり抜け出して、誰の目も届かない遠いところへ行ってしまいたくなるほどに。それこそ今日のように。
「こっちのこと」
 怪訝そうな顔でこちらを向いたディアスにそう言って、話題を変えることにした。