僕が君に思うこと

#カイトから見たルカメイルカの話。
#カイメイではない。地雷注意。
 

 
僕が君に思うこと
 
 バレンタインデーを少し過ぎた頃に何かしらのプレゼントをくれるのは、君と僕とが知り合ってからの、毎年の恒例行事。
 それは一粒何百円かするチョコレートだったり、牧場のアイスクリームのお取り寄せだったり、お好み焼きにしか見えないマロンケーキだったりいろいろだ。
 今年は果物がたくさん乗った手作りのタルト。
 それを受け取りに君を訪ねて、ついでに夕食に招かれることにする。
 いい匂いが漂うキッチンには、厚底鍋で鶏肉と玉ねぎを炒めている君がいて、ダイニングチェアからその手際のいい様子を眺める僕は、まるで君の旦那さん。
 君と僕とは長いこと一緒にいて、夫婦のようでもあったし、姉と弟のようでもあったけれど、僕にとってはどちらでもない。
 例えるなら君は、僕の世界に咲いた大輪の花のような人だ。
 僕が生まれたときにはもう君はこの世界にいて、はじめましての挨拶は少し緊張した。その時からずっと君は、僕の標。
 僕や、そのあとに続く子たちはみんな君を目指し、君がそこにいることに安堵し、やがて通り過ぎて行く。時おり戻ってくることもあるだろう。
 そのために君は、折れることのない花でいなければならない。君はそれを誰よりもよく理解していて、その役がとても大変なのだと、誰にも言わない。
 だからその花を支える誰かが必要だと、ずっと思っていた。
「それは僕じゃなかったけどね」
「なにか言った?」
 ひとりごちた僕に君が答える。まな板をとんとん言わせながら。
 セロリも人参もパプリカも、そんなふうに細かくするようになったのは、あの子に出会ってからだって知っているよ。
「いいにおいだね。お腹すいたよ」
 野菜が苦手なあの子がいつも、君の料理を残さないことも知っているよ。
 刻んだ野菜をお鍋に入れて、調味料を入れて、トマト缶も入れて、蓋をして想い人の帰りを待つ君はとても幸せそうだ。
 やがて玄関扉が開く気配がして、閉まる音がした。少ししてスリッパがぱたぱたと鳴る。君の想い人が帰ってきた。
「やあ、おかえり」
「こんばんは」
 真っ先に君の顔を見たかったはずのその子は礼儀正しくまず僕に挨拶をして、すぐにキッチンから顔をのぞかせた君にただいまを言った。
 脱いだコートをハンガーに掛けながら、その子は僕に問いかける。
「タルト、食べました?」
「うん。美味しかった」
 一切れだけ食べて、残りは持って帰ると伝える。その子はとても嬉しそうに、二人で作ったのだと教えてくれた。
 それからその子はキッチンへ、トマトシチューの出来ばえを見に。ガステーブルの前で笑い合う君と、君の恋人が幸せなら何よりだ。
 僕にもいつかそんな人ができるのだろうか。
 それでもきっと、僕がいちばんに思うのは君のこと。
 どうかずっと幸せに。