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#メイコさんを好きすぎるルカさんとそんなルカさんが可愛いメイコさんの話。
#ルカさんにはメイコさんが特別に格好よく見えるフィルターがかかっている。
 

 
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 メイコさんは人より特別に手足が長いと思う。それは二人でダンスパフォーマンスをするようなミュージックビデオの撮影があるとよくわかる。
 リハーサルの合間の休憩時間に、私は自分のスマートフォンで撮ったパフォーマンスを確認しながら改めて思った。ユニゾンの歌を同じ振付で踊っているのに、メイコさんのほうが何倍も格好よく見えるのはきっとその所為だ。
 それに、冷房が苦手な私にメイコさんが貸してくれたブルゾンは、袖が余ってうっかり萌袖になってしまっているし、同じくらいの背丈で同じ高さのスチール椅子に隣り合って座っているのに、何故か私のほうが背が高く見える。
「どこか気になるの?」
 私が納得の行かない顔をしていたからか、不意にメイコさんが私の手元を覗き込んだ。
 リハーサルの出来栄えは悪くない、とは思うけれど。
「どこというか、メイコさんのほうが全体的に格好よく見えます」
 そう言って私はため息をつく。そもそもこの人はシンガーのくせに、どうしてこんなにスタイルがよくてダンスが上手いのか。隣に立って恥ずかしくないように、メイコさんの相手役は私がいちばんだと言ってもらえるように、私だって出来る限りの努力をしているのに敵わない。
「そうかなあ」
 メイコさんは間延びした声で言いながら、私の手元に手を伸ばして動画をリプレイして、スチール椅子の上で足を組んだ。そのひとつひとつの仕草に私はどぎまぎしてしまう。やっぱりメイコさんは人より特別に手足が長くて、何をしても素敵でずるい。
「それはさ」
 メイコさんは画面を見ながら少し考えて、私の耳に唇を寄せた。
「ルカが私のことを好きだからじゃない?」
「そ、そういう話ではなくてですね!」
 唐突な口説き文句に椅子を蹴ってうろたえる私に、メイコさんは悪戯な顔で追い討ちする。
「だって私にはルカがとびきり可愛く見えるもの」
 この人は本当に、嫌味なくこういうことを言うから困る。これを好きにならないほうがどうかしている。
 かっと顔が熱くなって、私は俯いてスマートフォンの中で格好よく踊るメイコさんを見つめることしかできない。そうして同じ画面に映る私はどうやら、メイコさんの目にはとびきり可愛く見えるらしい。
 それはとても嬉しくて、そんな自分に腹が立つ。
 巡音ルカはクールでミステリアスなキャラクター付けなのだ。可愛く見えるのはプライベートだけでいい。
「もう、メイコさんのせいで仕事に支障が出そうです」
 悔し紛れに私が言うと、メイコさんはそれはそれは楽しそうに声を立てて笑った。