#一緒に暮らしているルカメイの日常。
#ルカがもうひと押ししたら落ちるんだけどずっとこのままなんだろう。
ずっと前から
結婚したら何が変わるのだろう。
そんなことを考えたのは、休日の朝ごはんのあとだった。
特に理由はなくて、強いて言えば、ダイニングテーブルの上に二人分の郵便物が積んであって、冷蔵庫には私が買ったヨーグルトとメイコさんが買った日本酒が並んでいて、洗濯機の中では二人分の服が一緒に回っていたから。
メイコさんはソファに座ってニュース番組を見ている。
私はキッチンでお湯を沸かしていた。コーヒーをドリップして、メイコさんにはブラックコーヒーを、自分はカフェオレを。これも随分長く続いている。
「どうぞ」
そう言ってメイコさんの前にコーヒーカップを置くと、メイコさんは柔らかい表情でありがとうと言ってくれた。
私は自分のカフェオレを持ってメイコさんの隣に座る。
しばらく並んでテレビを見て、ふと私は呟いた。
「私たちって、結婚しているのとあまり変わらないですね」
言ってから、自分でもずいぶん唐突だったと思った。
メイコさんはテレビから目を離してこちらを見ると、何とはなしにそうねと言う。メイコさんにとって私が一緒にいることは当たり前なのだと思うと嬉しかった。
同じ家に住んで、生活を共にして、朝起きてすぐに顔を合わせるし、夜になれば大抵一緒に夕飯を食べる。仕事の予定はお互い何となく把握しているし、遅くなる日は連絡する。どちらかが体調を崩せば世話をするし、必要なものがあればついでに買って帰る。
そうやって何年も一緒にいた。
考えてみれば、これ以上何をしたら結婚になるのだろう。
「結婚してくださいって言ったら、してくれますか?」
「うん」
メイコさんは笑って答えた。
あまりにも軽い返事だったので、私は思わず聞き返した。
「本当に?」
メイコさんは笑っている。
「生活だけ見たら、もうそんな感じでしょう?」
「それは、そうなんですけど」
「けど?」
「その、ずっと一緒に暮らすつもりというか」
言葉にすると急に恥ずかしくなる。
メイコさんはそんな私を見て、楽しそうに目を細めた。
「だってルカ、出て行く予定あるの?」
「ありません」
「私もないわよ」
それだけ。
たったそれだけなのに、とても嬉しい。
メイコさんにとっては、たぶん本当にそれくらい自然なことなのだろう。
少しして、洗濯機が終了を知らせる音を鳴らした。
「一緒に干そうか」
メイコさんがそう言って、二人で立ち上がる。
結婚してもしなくても、きっと何も変わらない。
夕飯を何にするか相談して、買い物に行って、帰ってきたらメイコさんが料理をして、私が片付ける。
夜になれば同じベッドで眠って、朝になれば私はメイコさんに起こされる。
その繰り返し。
それで十分だと思う。
「ねえ、ルカ」
ベランダでシャツを干しながら、メイコさんが言った。
「結婚しても、今とあんまり変わらなそうね」
さっき私が言ったことを、そのまま返される。
「そうですね」
「じゃあ、しなくてもいいのかな」
少し考える。
制度としての結婚が必要かどうかは、よく分からない。
「でも、してもいいですね」
答えると、メイコさんは振り返った。
風に揺れたシャツの向こうで、少しだけ驚いた顔をしている。
「そう?」
「はい」
メイコさんはそのまま何事もなかったように、また洗濯物を干し始める。
けれど少し嬉しそうだ。
私もそれを見て嬉しくなった。
この関係に名前がついてもつかなくても、どちらでもいい。
ただこの人と同じ家で暮らして、同じ洗濯物を干して、同じ食卓を囲む。
もうずっと前から、そしてこれからも。