his growing

#大人になったわね、貴方。
#レオチサの場合はこうなるのかなと思います。
 

 
 
 his growing
 
 貴方が大人になる頃には、私はおばさんになってるわよ?
 それでもいい!
 
 あの子がそんな風に言ったのは、もうずいぶんと前のこと。
 あの子はいつも、幼い声で、チサトお姉ちゃん、って私を追いかけてきた。
 
 
 ラクールで新しい生活を始めてから、あっという間に時間が経った。
 まったく違う文化に慣れるのに忙しくて、まったく知らない土地で暮らすのに忙しくて。
 おかげさまで、自力で興した新聞社は軌道に乗って、ラクール王城も顔パスになった。
 天井まで届く蔵書室の本棚は、地震でも起きたら大変だなって思う。
 それと、もう少し踏み台を増やして欲しい。
 せいいっぱい背伸びしたんだけど、惜しいところで届かなかった。
「お疲れさま」
 ジャンプしたら行けそう、なんて意気込んだところで、後ろから声がした。
「あ、レオン君。ちょっとアレ取ってくれない?」
「これ?」
 私が苦戦していた本棚の3段目に、すっと手を伸ばす。
 背が伸びたわね、って、最後に思ったのはいつだったかしら。
「忙しい?」
「まあまあね」
 城内で会ったときの、私たちのいつもの挨拶。
 変わったわね、私たち。
 こんな風になるなんて、思わなかった。
「後で迎えに行くよ。食事に行こう」
 笑った顔は、まだあの子の面影を残してた。
 
「お腹すいたわねー。何食べたい?」
 そう言って私は貴方を見上げる。あの頃は貴方が私を見上げてたのに。
 夕焼けの色に照らされた横顔が私を向く。
「この前美味しいお店見つけたんだ。兵舎の裏のとこ」
 貴方は私に合わせてゆっくり歩く。あの頃は私が貴方に合わせてたのに。
 こうして並んで歩いてても、可愛い弟さんですね、なんて言われなくなっちゃったわね。
「いい夕暮れねぇ」
「年寄りくさいよ、それ」
 聞き捨てなら無い言葉に、名刺を出してバーニングカーズの構えをとる。
「言ったわね? 言ってはならぬことを!」
「冗談だって!」
「こら、待ちなさい!」
 いつの間にか、走るのも貴方のほうが早くなっちゃったわね。
 大人になったわね、貴方。
 こんな風になるなんて、思わなかった。
「チサトさんはいつだって若いよ」
 生意気な言い方は、やっぱりあの子の面影を残してた。
 
 
 貴方が大人になる頃には、私はおばさんになってるわよ?
 それでもいい!
 
 貴方がそんな風に言ったのは、もうずいぶんと前のこと。
 貴方はいつも、少し低い声で、チサトさん、って私を振り返る。