下書きからサルベージした東京魔人學園剣風帖の第8話のインターバルの会話。
いずれ付き合う龍麻と亜里沙なので苦手な方は注意。
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夕焼けが公園を赤く染めていた。ブランコは風に揺れ、遠くでは子どもたちの声が聞こえる。
その穏やかな光景と、龍麻のいるそのベンチは別の世界のようだった。
亜里沙は少し離れた場所からその姿を見つけ、小さく息を吐いた。
龍麻は俯いたまま動かない。長い前髪が目元を隠して、亜里沙の姿にも気づかない。
最近はずっとこんな調子だ。理由は知っていた。
龍麻が仲良くしていた後輩の女の子はもういない。彼女の兄の差し金で近づいて、けれど最後には龍麻を守り、兄ともども炎の海に消えていった。
世間的には兄妹は廃工場の火災事故で亡くなったことになっている。
こんなことが身近に起こるなんて思わなかった。
これも自分たちに突如として湧いた不思議な能力に関係するのだろうか。だとしたらその中心にいるような龍麻が、どんな思いを抱えているか想像もつかない。
亜里沙をここに呼び出したのは龍麻だけれど、だからこそ何を言えばいいのか分からなかった。分かるのはただ、放っておけない、その感情だけだ。
「元気、だしなよ」
そう声をかけて、亜里沙はベンチの隣に腰を下ろした。
龍麻は顔を上げない。
沈黙が流れる。
夕暮れの風だけが二人の間を通り過ぎていき、やがて亜里沙は無理に明るい声を出した。
「そんな暗い顔、あたし、いつまでも見てらんないよ」
龍麻の肩がわずかに揺れた。しばらくして、小さな声が返ってくる。
「⋯そうだな。悪い」
かすれた声だった。
亜里沙は首を振る。謝ってほしかったわけじゃない。少しでも前を向いてほしかっただけだ。
けれど見知った誰かが亡くなる辛さを亜里沙はよく知っていたし、少なからず自分たちの持つ能力が影響しているのかもしれないと考えるとやり場のない感情があって、これ以上は何も言えなかった。
龍麻は膝の上で握りしめていた手を見つめる。
「情けないけど」
ぽつりと力ない声で言った。
「もう少しだけ、側にいてくれるか」
亜里沙は目を見開いた。
龍麻がこんなふうに誰かを頼るのは珍しい。そのために自分をここに呼んだのなら。
「うん」
答えは最初から決まっていた。
「それであんたが元気になれるなら、いつまでだって、側にいるよ」
龍麻は初めて少しだけ顔を上げた。
夕陽の中で、その表情はまだ苦しそうだったけれど、ほんの少しだけ力が抜けて見えた。
「ありがとう」
言われて、亜里沙は慌てて視線を逸らす。
胸が熱くなる。
「そんなの…いいよ」
龍麻には聞こえないくらいの声で小さく呟く。
「あたしはただ」
夕焼けの空を見上げる。涙が出そうになるのをこらえた。
「あんたに、笑って欲しいだけだよ」
龍麻は何も言わなかった。
けれど少しだけ、本当に少しだけ、その口元が緩んだような気がした。
それを見て、亜里沙もまた小さく笑った。
今はまだそれで十分だった。